エンゲージメント向上のカギは「管理」でなく「共創」。つながる組織のつくり方とは
コラム

従業員のエンゲージメント向上施策を試すものの、なかなか効果を実感できない。その原因は、無意識のうちに行っている「管理」型のアプローチにあるのかもしれません。
この記事では、エンゲージメント向上の本質を「共創」という新たな視点から解説します。エンゲージメントが高まる心理的なメカニズムから、ハイブリッドワーク環境下でも実践できる「共創型組織」への具体的なステップまでを学び、組織と個人の新しいつながりを構築するヒントを提供します。
社員のエンゲージメント、なぜ多くの施策は効果が出ないのか
ここでは、エンゲージメントの本質的な意味を定義し、多くの企業が陥りがちな「管理」型アプローチの問題点についてご紹介します。
エンゲージメントとは単なる満足度ではない
エンゲージメントとは、単に「従業員満足度」が高い状態とは異なります。それは、従業員が組織の目指す方向性を理解し、自らの仕事に誇りとやりがいを感じ、その成功に対して自発的に貢献したいと願う意欲のことです。
しかし、米ギャラップ社の2024年の報告によれば、日本の「熱意あふれる社員」の割合は5%と、世界平均の23%と比べて極めて低い水準にあります(※1)。これは、多くの企業で人材の持つポテンシャルが十分に引き出されていない現状を示唆しており、エンゲージメント向上が喫緊の経営課題となっているのです。
施策が空回りする原因は「管理」型アプローチにある
エンゲージメント向上のために1on1ミーティングや社内アンケートといった施策を導入しても、効果が感じられないケースは少なくありません。その根底には、良かれと思って行っている「管理」型のアプローチが存在する可能性があります。
例えば、進捗確認や業務指示が目的の1on1は、従業員の主体性を育む機会を奪いかねません。こうしたアプローチでは、従業員は自発的な貢献意欲であるエンゲージメントを高めることは難しく、施策が空回りする根本的な原因となるのです。
これからの時代に求められる「共創」という考え方
その解決策が、発想を180度転換する「共創」にあります。これは、従業員を管理対象ではなく、企業の未来を共に創るパートナーと捉え、意思決定のプロセスに巻き込んでいく考え方です。経済産業省が推進する「人的資本経営」においても、企業理念の浸透や従業員の主体的なキャリア形成の重要性が指摘されています(※2)。
社員一人ひとりが持つ能力やアイデアを最大限に引き出し、組織の力に変えていく。この「共創」こそが、持続的なエンゲージメント向上を実現するのです。
エンゲージメントが内側から高まる「共創」のメカニズム

共創とは単なるチームワークではなく、人が「自ら動きたくなる」心理的な仕組みに根ざした考え方です。
ここでは、その行動を支える“内的動機”を生み出すメカニズムを理解していきましょう。
人が主体的に動くための3つの心理的欲求とは
なぜ「共創」がエンゲージメントを高めるのでしょうか。そのヒントは、人が本来持つ「やる気」の源泉を解き明かす「自己決定理論」(心理学理論)にあります。この理論によれば、人間は生まれながらにして「①自分で決めたい(自律性)」「②能力を発揮したい(有能感)」「③良い関係を築きたい(関係性)」という3つの心理的欲求が備わっています。これらが満たされることで、人は幸福感を得て、自らの行動に主体的に取り組むようになります。
「自律性」を育む意思決定への参画と裁量権
「自律性」とは、自らの行動を自分で決めたいという欲求です。トップダウンの指示で動くのではなく、業務の進め方や目標設定に自らが関与することで、仕事は「自分ごと」へと変わります。
例えば、チームの課題解決策をメンバーで議論したり、個人の目標設定に本人の意思を尊重したりする「共創」的なアプローチは、この自律性を直接的に育みます。従業員に裁量権を与え、信頼して任せることが、管理される以上のパフォーマンスを引き出す第一歩となります。
「有能感」を満たす貢献実感と成長の機会
「有能感」とは、自分が有能でありたい、能力を発揮して環境に効果的に関わりたいという欲求を指します。自分の仕事が誰かの役に立っている、チームの成功に貢献できたという実感が、この欲求を満たします。
そのためには、挑戦的な業務を経験し、それを乗り越えることで成長を実感できる機会が不可欠です。「共創」のプロセスでは、自らのアイデアが形になったり、他者からのフィードバックを通じて能力が向上したりする場面が多く、従業員は自身の価値と成長を強く認識することができます。
「関係性(つながり感)」を深めるオープンなコミュニケーション
「関係性(つながり感)」とは、他者と互いに尊重し、安全な関係を築きたいという欲求のことです。
特に職場においては、上司や同僚と安心して意見を交わせる環境が、この欲求を満たす上で極めて重要になります。共に課題に取り組み、建設的な対話を重ねる「共創」のプロセスは、まさにこの関係性を育むための土壌そのものです。単なる業務連絡を超えたコミュニケーションを通じて相互理解が深まることで、組織への帰属意識とエンゲージメントは自然と高まっていくでしょう。
明日から始める「共創型組織」への3つのステップ

理論を理解したら、次は実践です。ここでは、明日から実際に組織の中で「共創」を育てるための3つのステップを紹介します。
Step1 まずは「心理的安全性」という土台を築く
共創は、従業員が安心して発言できる土台があって初めて成り立ちます。この土台が「心理的安全性」です。
まずは、どのような意見も歓迎されること、失敗を過度に恐れる必要はないことを、リーダーが自らの言動で示しましょう。会議で積極的に若手の意見を求めたり、挑戦した結果の失敗を責めるのではなく次の学びに繋げたりする姿勢が、組織全体の心理的安全性を着実に高めていきます。
Step2 「1on1」を管理の場でなく対話の場に変える
多くの企業で導入されている1on1ミーティングですが、その目的を「管理」から「共創」へとシフトさせることが重要です。進捗確認や業務指示に終始するのではなく、部下のキャリア観や価値観に耳を傾け、彼らの成長を支援するための対話の場として再定義しましょう。上司が答えを与えるのではなく、質問を通じて部下自身に考えさせ、内省を促すコーチング的な関わりが求められます。
このような対話を通じて部下の「自律性」を尊重することが、エンゲージメント向上のための強力な後押しとなります。
Step3 企業の「パーパス」を自分ごと化する対話を促す
従業員が「何のために働いているのか」を実感できることは、エンゲージメントの根幹をなす要素です。
そのためには、企業が掲げるパーパス(存在意義)やビジョンと、従業員一人ひとりの業務やキャリアを結びつける対話が欠かせません。なぜこの事業を行っているのか、社会にどのような価値を提供したいのかを語り、それに対して従業員がどう貢献できるかを共に考えるのです。会社の目標が個人の目標と重なったとき、従業員は仕事に深い意味を見出し、エンゲージメントは内側から醸成されていきます。
ハイブリッドワークにおける「共創」の新たな可能性

働き方が多様化する現代において、共創をいかに実現するかは新たな課題です。オンラインの課題を認識した上で、オフィスを「共創のハブ」と再定義することで、ハイブリッドワークはエンゲージメント向上の新たな機会となり得ます。
オンライン中心で失われがちな偶発的なコミュニケーション
ハイブリッドワークの普及は柔軟な働き方を実現する一方、新たな課題も生んでいます。テレワークの実施によって、同僚との気軽な相談・報告や、非公式な会話(雑談)がしにくくなったと感じる人も少なくありません。オフィスで自然に生まれていた何気ない会話は、実は新たなアイデアの源泉であり、相互理解を深める重要な機会でもありました。
こうした偶発的なコミュニケーションの減少は、組織の一体感や「共創」の機会を損なう一因となってしまいます。
偶発性に頼らず、意図的に「共創」の機会をデザインする
失われた偶発的なコミュニケーションを補うためには、オンライン・オフラインを問わず、「共創」が生まれる機会を意図的に設計することが求められます。
例えば、特定のテーマについて誰もが自由に書き込めるチャットチャンネルを作成したり、部署を横断した小規模なオンライン座談会を定期開催したりすることも有効でしょう。ただツールを導入するだけでなく、従業員同士が自然につながり、アイデアを交換したくなるような「場」を意識的にデザインする視点が、これからの組織運営には不可欠です。
オフィスの役割を「作業の場」から「共創のハブ」へ
ハイブリッドワーク環境下では、オフィスの役割そのものを見直す必要があります。Job総研「2025年 出社に関する実態調査」(2025年1月)によると、出社が必要だと感じる理由として「質問や意見交換がしやすい」(66.4%)が最も多く、出社を対面コミュニケーションの場として捉える傾向がうかがえます(※3)。個人で集中できる作業は在宅で行い、オフィスはチームでの議論やブレインストーミング、部門を超えた交流など、「共創」を加速させるための戦略的拠点(ハブ)として位置づけるのです。
オフィスに集う目的を明確にすることで、出社そのものがエンゲージメントを高める機会へと変わっていくでしょう。
まとめ:エンゲージメント向上は、社員との“共創”から始まる

エンゲージメント向上の道筋は、制度や管理の強化ではなく、従業員一人ひとりの内なる意欲に光を当てることから始まります。
この記事が、皆さまの組織を「管理」から「共創」へと導き、社員と企業が共につながり、成長していくための新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
出典
※1/Gallup, Inc.「State of the Global Workplace: 2024 Report」:https://news.gallup.com/opinion/gallup/510257/japan-workplace-wellbeing-woes-continue.aspx
※2/経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)」:https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf
※3/Job総研「2025年 出社に関する実態調査」:https://jobsoken.jp/info/20250127/