空間心理学で読み解く!チームの成果を高めるオフィス席配置の秘訣
コラム
チームの生産性やコミュニケーションに課題を感じていませんか?
実はオフィスの「席配置」が、チームパフォーマンスに大きな影響を与えているかもしれません。
この記事では、空間心理学の知見を基に、チームの力を最大限に引き出す席配置の具体的なアイデアや、フリーアドレス・ABWといった多様な働き方への応用までを分かりやすく解説します。
オフィスの「席配置」がチームパフォーマンスを左右する
働き方が大きく変化し、オフィスの役割もまた見直されています。本章では、なぜ「席配置」という要素がこれほどまでにチームの成果に影響を与えるのか、その背景にある従業員の心理や行動との関連性について掘り下げていきます。
働き方の変化とオフィスに求められる新たな役割とは
近年、テクノロジーの進化や社会情勢の変化に伴い、テレワークやハイブリッドワークといった柔軟な働き方が急速に普及しました。実際に、ある調査では、オフィスワーカーの約7割がハイブリッドワークを理想とし、週の半分程度の出社を望んでいるという結果も出ています(※1)。
これにより、オフィスに求められる役割は、単なる「作業場所」から、「コミュニケーションのハブ」「企業文化の醸成の場」「イノベーション創出の拠点」へと大きくシフト。従業員が集う意味が問い直される中で、オフィス空間には、対面ならではの質の高い交流を促し、チームの一体感を育む設計が不可欠なのです。だからこそ、誰とどこで働くかをデザインする席配置の戦略性が、これまで以上に重要視されています。
見過ごされてきた「座る場所」が従業員の心理と行動に与える影響
日常的に意識することは少ないかもしれませんが、「どこに座るか」は私たちの心理や行動に想像以上の影響を及ぼしています。
例えば、周囲の視線が気になる場所では集中しにくく、逆に適度なプライバシーが保たれる空間では安心して作業に取り組めるでしょう。環境心理学の研究においても、物理的環境が人間の認知や感情、行動に作用することが示されています。これらの無意識的な反応は、個人の生産性だけでなく、チーム全体の雰囲気や連携の質にも直結する要素。座席の配置一つで、働きやすさもチームの力も大きく変わる可能性を秘めているのです。
空間心理学で読み解く、生産性と快適性を高めるオフィス環境のヒント
空間心理学は、人が空間からどのような影響を受け、心理や行動がどう変化するのかを研究する学問です。この知見をオフィス環境に応用することで、従業員がより快適に、そして生産的に働ける空間づくりが可能になります。
例えば、人間には他者との間に適切な距離を保とうとする「パーソナルスペース」の概念があり、これが侵害されるとストレスを感じやすくなります。
また、空間の色彩が気分や集中力に影響を与える色彩心理学や、自然要素を取り入れることで心身の健康を促すバイオフィリックデザインの考え方も重要です。これら科学的根拠に基づいたアプローチが、働きがいのあるオフィス実現につながります。
チームの力を引き出す!空間心理学の基礎知識と席配置への応用
チームパフォーマンスを向上させるためには、空間が人に与える影響を理解し、それをオフィス設計に活かすことが重要です。本章では、その鍵となる空間心理学の基本的な概念や心理的効果について解説します。
人間関係の距離感を示す「プロクセミクス」とは?オフィスでの活かし方
プロクセミクスとは、文化人類学者エドワード・T・ホールによって提唱された、人と人との物理的な距離がコミュニケーションに与える影響を研究する概念です(※2)。ホールは対人距離を密接距離(0-45cm)、個体距離(45-120cm)、社会距離(1.2-3.6m)、公衆距離(3.6m以上)の4つに分類しました。オフィスにおいては、チーム内の協調作業やブレインストーミングには社会距離の近接相(1.2-2.1m)が適しており、デスク配置でこれを意識すると自然な会話が生まれやすくなります。
逆に、1対1の面談や集中作業では、個体距離を保てる配置が望ましいなど、活動内容に応じた距離感のデザインが重要。この理解がオフィス席配置の最適化に繋がります。
視線と通行が集中を妨げる?“心理的テリトリー”を守る席配置の重要性
人は無意識のうちに自分の周囲に心理的な縄張り、すなわちテリトリー(領域意識)を持っています。自分のテリトリーが確保されていると感じると安心感が生まれ、作業への集中力も高まります。研究によれば、自分のワークスペースをある程度コントロールできる環境は、従業員のウェルビーイングや生産性に正の影響を与えることが示されています(※3)。
オフィスにおいて、背後を頻繁に人が通る、あるいは周囲からの視線が常に気になるような席配置は、このテリトリーを侵害されている感覚を与え、ストレスや集中力の低下を招きかねません。そのため、パーティションの高さや向きの工夫、通路からの適切な距離の確保などが、安心して業務に取り組める環境づくりの鍵となるのです。
オープンな空間とクローズドな空間、それぞれの心理的効果と使い分け
オフィス空間は、その開放度によって従業員の心理や行動に異なる影響を与えます。オープンな空間は、見通しが良く、偶発的なコミュニケーションや情報共有を促進しやすい反面、騒音や視覚的な妨害が多く集中を要する作業には不向きという指摘も。実際、ハーバード大学の研究では、オープンオフィス化が対面での会話を約70%減少させたという報告もあります(※4)。
一方、個室やブースのようなクローズドな空間は、プライバシーを確保し集中作業や機密性の高い業務に適していますが、孤立感を生んだり、チームの一体感を損なったりする側面も持ち合わせています。それぞれの特性を理解し、業務内容や目的に応じて適切に使い分けられるようなゾーニングが重要です。
席配置を考える上で知っておきたい、その他の重要な空間心理学の要素
プロクセミクスやテリトリー、空間の開放度以外にも、オフィス環境をデザインする上で考慮すべき空間心理学の要素は多岐にわたります。
例えば、「バイオフィリックデザイン」の概念に基づき、自然光を多く取り入れたり、観葉植物を配置したりすることは、従業員のストレス軽減や創造性の向上に繋がるとされています。ある研究では、窓から自然が見える職場で働く人は、そうでない人と比較して欠勤率が低いという結果も(※5)。また、動線計画は偶発的な出会い(セレンディピティ)を促す重要な要素であり、色彩心理学に基づいた壁や家具の色選びは、空間の雰囲気や従業員の気分に影響を与えます。これらの複合的な視点が、より豊かで生産的なオフィス作りには不可欠です。
【目的別】チームパフォーマンスを高めるオフィス席配置のアイデア
空間心理学の理論を理解した上で、次はそれをどのように具体的なオフィスレイアウトに落とし込むかが重要です。
チームの目的、業務内容、そして企業文化に合わせて席配置を戦略的にデザインすることで、コミュニケーションの活性化、集中力の向上、さらにはイノベーションの促進といった具体的な効果が期待できます。
コミュニケーション活性化を促す効果的な席配置パターン
チーム内のコミュニケーションをより活発にしたい場合、メンバー同士が自然と顔を合わせ、気軽に会話できるような席配置が効果的です。
例えば、部署やチームごとにデスクを島型にまとめ、中央に共同作業用の小さなミーティングスペースを設ける「クラスター型」は、一体感を醸成し、情報共有を円滑にします。また、背中合わせではなく、互いの視線が自然に交差するようなデスクの角度や、プロジェクト単位で流動的に集まれる「プロジェクトスペース」の設置も有効な手段です。
個人の集中力とチームの生産性を両立させるゾーニング
チーム全体の生産性を高めるには、活発なコミュニケーションだけでなく、個々人が集中して作業に取り組める環境も不可欠です。オフィス内を「コミュニケーションゾーン」と「集中ゾーン」に明確にゾーニングし、それぞれの目的に合った設えを施すことが重要。集中ゾーンには、周囲の視線や音を遮るためのパーティション付きデスクや、一人用の集中ブースを配置。また、通路から離れた静かなエリアに設けるなどの配慮も有効でしょう。
フリーアドレス・ABW環境で効果的なレイアウト
固定席を持たないフリーアドレスや、業務内容に合わせて働く場所を選ぶABW(Activity Based Working)は、柔軟な働き方を実現する一方で、無計画な導入は混乱を招くことも。空間心理学の観点からは、多様なワークシーンに対応できる様々なタイプの座席を用意することが推奨されます。
例えば、短時間の一時利用作業に適したカウンター席、リラックスしてアイデア出しができるソファ席、機密性の高い作業やオンライン会議用の個室ブースなど。これらの座席の利用ルールを明確にし、従業員が自律的に最適な場所を選べる環境づくりが成功の秘訣です。
席配置の効果を最大化し、持続させるために知っておくべきこと
空間心理学に基づいた効果的な席配置を実現しても、それが継続的に機能し、チームパフォーマンス向上に貢献し続けるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
席配置変更に失敗しないための従業員との合意形成のポイント
オフィス環境の変更、特に席配置の変更は、従業員の働き方や心理に大きな影響を与えるため、丁寧なコミュニケーションと合意形成のプロセスが成功の鍵を握ります。変更の目的、期待される効果、そしてその背景にある空間心理学的な根拠などを、ワークショップや説明会を通じて従業員に分かりやすく伝えましょう。
アンケートやヒアリングで従業員の意見を吸い上げ、設計プロセスに反映させることも有効です。一部エリアでの試験導入を行い、フィードバックを得ながら進めることで、抵抗感を減らし、スムーズに移行を進められます。
定期的な見直しと改善が、オフィス環境を最適に保つ
ビジネス環境や組織の状況は常に変化します。そのため、一度構築したオフィス環境が永遠に最適であり続けるとは限りません。重要なのは、オフィス環境を固定的なものと捉えず、定期的にその効果を評価し、必要に応じて改善を加えていくアジャイルな姿勢です。従業員満足度調査、コミュニケーション頻度のアンケート、各エリアの利用率データなどを指標として活用し、現状の課題を特定します。
そして、その分析結果に基づいて、家具の配置変更、ゾーニングの見直し、あるいは新たなツールの導入など、継続的な改善活動(PDCAサイクル)を回していくことで、オフィスは常に進化し続けることができるのです。
まとめ
オフィスの席配置は、単なる物理的なレイアウトの問題ではなく、チームのコミュニケーション、生産性、そして創造性に深く関わる重要な経営戦略の一つです。空間心理学の知見を活用することで、従業員一人ひとりが持つ能力を最大限に引き出し、チーム全体のパフォーマンスを高める快適で機能的なオフィス環境を構築することが可能になります。
出典
※1/Job総研:2025年 出社に関する実態調査(2025年1月27日) https://jobsoken.jp/info/20250127/
※2/Hall, E. T. (1966). The Hidden Dimension. Anchor Books.
※3/Craig Knight & S. Alexander Haslam (2010). The Relative Merits of Lean, Enriched, and Empowered Offices: An Experimental Examination of the Impact of Workspace Management Strategies on Well-Being and Productivity
※4/Bernstein, E. S., & Turban, S. (2018). The impact of the ‘open’ workspace on human collaboration
※5/Kaplan, R. (1993). The role of nature in the context of the workplace